「芋料理だと?ギアの私がなぜそんなものを喰う」 テスタメントは片眉をつりあげて言い放った。 綺麗な顔はどんな表情もサマになるもんだなあ、と一瞬オレはアホなことを考えた。 この御仁のこういう物言いにはいい加減慣れている。要するに照れているのだ。 「遠慮すんなって~、芋好きなんだろ。あ、ポテトと芋は違うとかそーいうことをいいたいワケ?」 「何をワケのわからんことを。」テスタメントはやれやれという顔をする。 最近この美人にも表情変化にバリエーションが増えてきて面白い。旦那の気持ちも分かろうってモンだ。 それはともかく、この程度でひるんで折角持ってきたジャーマンポテトを無駄にしてはもったいない。これでビールを飲むとうまいんだ。まあ我が英国の誇るフィッシュ&チップスには少々劣るかもしれないが。 オレは負けずに言いつのった。 「誤魔化さなくたって、いいってば。だってアンタのプロフィールに好きなものはポテトってちゃんと書いてあんじゃん。」 テスタメントは高慢な唇をゆがめて嘲笑った。 「おまえは何か勘違いをしているな。好きなものじゃない、ポテトは大切なものだ。」 「あれそうだっけ。」オレは慌ててエンサイクロペディアをめくった。「ええと、”大切なもの:故クリフ・アンダーソン、ポテト”・・・・。」 これはたしかにオレの勘違いだ、でも好きと大切に対した違いはないだろう。 そう言うとテスタメントの様子が一変した。 「ポテトは我が亡き養父クリフ・アンダーソンと同格に大切なものだ。それをおまえは、私が芋を好物にしているだけだと言いたいのか?」 口調は冷静だが・・・やばい、怒っている、これは怒っている。 オレはじりじりと後退しながらこういうときに頼りになる筈の唯一の人間(?)に声をかけた。 「旦那ァ・・・」 頼みのソルの旦那はにべもない。 「勝手にやってな、俺はもうそいつのポテトとやらにはかかわりたくねぇんだ。」 「はあ?・・・」 と気を逸らした隙にずいと間合いを詰められ、飛び退こうとするも一瞬遅くオレの手首はテスタメントにがっちり掴まれていた。 「よかろう、お前にも見せてやろう、私の”大切なポテト”を」 「え?え?え?」オレ様わけわかんなーーいっ 混乱したまま引きずられていくオレの背後で小さな呟きが聞こえた。 「可哀相に、アクセルの奴・・・ヘヴィだぜ。」 引きずられていった先はテスタメントの自室とおぼしいところだった。 「さあよく見ろ、これが私の大切なポテトだ」 オレは言葉を失った。 そこには恐ろしい光景がひろがっていた・・・・・ *********************** 巨大なポテト形クッション、フライドポテトのぬいぐるみ、ポテトの伸びた芽がボールペンになっているもの、ポテトのキーホルダー、ポテトの携帯ストラップ、ポテトの箸置き、ポテトの陶器の小物入れ、ポテトの貯金箱、ポテトのポストカード、ポテトを描いたボタニカルアート、ポテトの湯飲み、ポテト柄のプレート、ポテト人形、ポテトペンダント、ポテトポテトポテト・・・ テスタメントの声が遠くに聞こえる「これを手に入れるのはなかなか苦労したんだ。なんといっても紙は劣化が激しくて、こんなに状態の良いのは・・・・・・・」 眼を閉じていてもポテト模様の壁紙の上でポテトのgifアニメがちかちかする様子が脳裏から離れない。 大切なもの:ポテト・・・テスタメントはポテトコレクターだったのか・・・。 ![]() *********************** ラミネートパックてのはどれだけ持つモンかなあ、オレ20世紀に帰れたらある限りのファーストフード店をめぐってフライドポテトのパッケージを集めてやるよ。 そんでそいつをラミネート加工して核シェルターに入れて埋めといてやるよ。 だから22世紀になったら掘り出してあんたのコレクションに加えてくれよ、な、テスタメント。 |
終 |