ソル君の日記


●月×日
疲れたのでテスタメントのやさへ寝に行った。
あの娘っこが出ていって以来殺風景な住処だが、残していったシーツだのなんだのは清潔にしてあるのが重宝だ。
奴は一人なら人間ぶる必要もないと思っているのか、酒も煙草もやらねえし飯もろくに喰いやしねえ。なのに今日は部屋に珈琲の匂いが残っていた。
しかも最近の代用珈琲じゃなくて本物の匂いだ。どういう風のふきまわしだ?
それよりテスタメントの奴、そんなものどこで手に入れたんだ?
俺も飲みたかったなあ、ちぇっ



○月△日
アクセルが土産だと言ってチョコレートを持ってきた。
なんのつもりだと訊いたら、こいつはスイスチョコレートだとぬかしやがる。
こんなもんなら喰うのかと思ってテスタメントに持っていってやったら、怒ってるんだか泣きそうなんだか妙な顔をしやがった。
全くわけのわからねぇ奴だ。
帰ろうとしたら井戸の横にコインが落ちているのをみつけた。
テスの奴もちゃんと町へ出て買い物くらいするようになったのか、いいことだ。



◎月●日
せっかく追いつめた獲物をついぶち殺しちまって賞金がふいになった。
燃えかすに賞金はだせねえ、火加減には気を付けろだとさ、中国娘が料理やってるんじゃねえってんだ、畜生。
懐が淋しいと綺麗なおねえちゃんも遊んじゃくれねえ、
つまらねぇからビターエールを抱えてテスのところへ転がり込んだ。
ベッドサイドにバラが一本さしてあった。かわいいことするじゃないか。
森にも随分赤いのが咲いてるもんなんだなあ?



◎月×日
今日は十分な間合いを取って慎重に獲物を追った。
よしここらで、と思ったところで目の前で赤い鎌が一閃、俺の大事な獲物がさっくりやられちまった。
人気のない方角に誘導した先がテスの縄張りのなかだったんだ。
腹が立ったので、賞金のかわりに飯でも喰わせろとごねてやった。
奴が料理なんかするわけないのを知っていて嫌がらせのつもりで言ったんだが意外なことに「残り物だけど」とかなんとかいいながらうまそうなモンがでてきた。
いかにも男の料理ってぇ感じのローストビーフ−まあビーフかどうかは追求しないとしてだな−と、年季の入ったお袋の味ってぇ感じの煮込みだった。
ずいぶん使い込んだ感じのキャセロールだったが・・・??
ま、美味かったからいいか。



◎月△日
俺としたことが、この前の煮込みの味がどうにも忘れられねぇ。また喰わして貰おうと思ってテスのところへ行った。
手ぶらじゃあんまりだと思ってイモまで背負っていったのに奴の姿がない。
奴が住みついている神殿はけっこう広い。どこにいるのかと探し回っているうちに寝室(なんだろう、たぶん)で不思議なものをみつけた。帽子かけとコートハンガーだ。
テスの奴わざわざハンガーなんか使うのか、几帳面な奴だ。
それにしてもコートハンガーじゃ奴の妙な服はうまくかけられないだろうに。
帽子なんかかぶらねぇくせに帽子かけを何に使っているんだ?
結局テスは帰ってこなかった。茸でもとりにいったのか。



◎月■日
2晩が過ぎて3日目の朝テスは帰ってきた。俺がいるのを見て驚いて真っ赤になっていた。
いや別に待ってたわけじゃないが−。そう煮込み、煮込みを喰わせてもらおうと思っただけだ。
そうねだったら自分は作れないと言う。何処に行ってたんだと訊いてるのに、土産だといってパンプキンパイを出す。
どうも話がかみあわねぇ。
問いつめると、煮込みを作ったのはリープおばちゃん(あの年季の入った味の謎はとけたぜ)、パンプキンパイはディズィが作って持たせてくれたんだと白状した。
ディズィっこに会いにいってたのか、なんだ、俺はてっきり・・・
てっきり・・・なんだ?
ところでローストビーフを作ったのは誰なんだろう。



◎月△日
また来ちまった。どうも最近テスの所に入り浸っている気がする。
とうとうテスは俺専用のベッドまでつくっちまった。
だが何かひっかかるんだ、何かが気にくわねぇ、だけどそれが何だか解らねぇんだよ。
俺とは逆に、テスの奴は最近元気そうだ。青白かった頬に血の気がさして・・・なんだかその−あーー、なんだ?綺麗になったとでも言やぁいいのか。
奴が生き生きしてるのは結構なこった。それでなんで俺がいらつくんだ?
意味もなく神殿中を歩き回って疲れてテスのベッドに腰を下ろしたら手に何かが触れた。
枕の下にあったのは白紙のトランプのカードだった。
あれ?この光景は・・・何かに似てる、なんだっけ、ずっと昔これと逆のことがあったような。
もう少しで思い出せそうな気がするんだが・・・俺も人間やめて150年たつからなあ



◎月▲日
この前から気になっていた昔の光景をやっと思いだした。
人間やってた頃につきあってた女がいたんだ。そいつがある日俺の車の助手席からあるものをみつけたんだ。
ご丁寧にシートの隙間に押し込んであったイヤリングの片方さ。
そのあとはちょっと大変だったよ。あたしに対する挑戦ね、とか女が騒ぎだしちまってさあ。
そうこれこれ、白紙のトランプをみつけたときに思いだしかけたのはこの話だよ。
ああ、すっきりした。これて今夜からよく眠れ・・・って
あーーーー!!!!



終  


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